大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成3年(ワ)5552号 判決

原告

株式会社菱和

右代表者代表取締役

澤田通太郎

右訴訟代理人弁護士

原健二

被告

日本貯蓄信用組合

右代表者代表理事

米田鹿男

右訴訟代理人弁護士

松田安正

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金五六四万円及びこれに対する平成三年四月一七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同趣旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  信用照会の依頼

(一) 平成三年四月一六日午後二時三〇分過ぎころ、当時原告の代表取締役であった澤田通男(以下「原告代表者」という。)は、守口亨(以下「守口」という。)から、株式会社アキヅキ(以下「アキヅキ」という。)の振り出した別紙目録記載の小切手一通(以下「本件小切手」という。)の割引を依頼された。

(二) そこで、原告代表者は、同日午後二時五五分ころ、本件小切手の割引に先立ち、原告の取引銀行である住友銀行(南森町支店)に対し、本件小切手の支払人である被告(福島支店)にアキヅキの信用照会をするよう依頼した。

2  信用照会に基づく小切手の割引とその不渡り

(一) 原告代表者は、同日午後三時八分ころ、右依頼に基づき被告に対して信用照会をした住友銀行南森町支店の長尾眞一営業課長(以下「長尾課長」という。)から、被告からアキヅキの決済状況は順調である旨の回答があった旨の電話連絡を受けた。

(二) そこで、原告代表者は、安心して、本件小切手の額面額から割引手数料金三六万円を差し引いた残額である金五六四万円を守口に交付した。

(三) しかし、アキヅキは、その一週間前である平成三年四月九日に一回目の不渡りを出しており、右信用照会(以下「本件信用照会」という。)の時点でも当日交換呈示された手形・小切手の決済資金の入金を待っている状態であった。そして、本件信用照会後、資金の手当てができず同日中に二回目の不渡りを出し、その結果、同月一九日に銀行取引停止処分を受けるに至った。

(四) 原告は、同月二一日、住友銀行を通じて本件小切手を交換呈示したが、「取引なし(停止処分済)」との理由でその支払を拒絶された。

3  本件信用照会の状況

(一) 本件信用照会は、同月一六日の午後三時ころ、長尾課長が電話により被告の福島支店に対してしたものであるが、これには被告の従業員である大河内巖次長(以下「大河内次長」という。)が応対した。

(二) その際、大河内次長は、長尾課長から本件小切手の決済の見込みを聞かれ、その回答として「六〇〇万円という大きな金額は今まで回っていないが、決済は順調に行っている。」と述べ、長尾課長からの再度の確認に対しても「順調に決済している。」と回答した。

4  大河内次長の回答の不法行為性

(一) 一般に銀行間の信用照会においては、会社の概要のみならず、手形事故の有無、手形決済の見込みについて照会がなされ、また、それに対し回答がなされている。

(二) しかるに、大河内次長は、長尾課長が住友銀行の顧客に知らせることを知りながら、本件信用照会に対し、アキヅキが一回目の不渡りを出していること及び二回目の不渡りが目前に迫っていることを故意に秘し、前記のような虚偽の回答をしたものである。

(三) 大河内次長は、相当でないと考えるならば本件信用照会に対して回答することを拒否すべきであったのに、長尾課長の二度にわたる確認に対して前記のように決済は順調である旨誤った回答をしたものである。したがって、大河内次長には、故意はなかったとしても、右のような誤った回答をしたことについて重大な過失がある。

5  原告の損害と被告の責任

(一) 本件小切手の割引は、原告代表者が原告の資金を支出して原告の行為として行ったものである。

(二) アキヅキは本件小切手の割引直後倒産し、その代表者は行方不明になっており、また、守口も本件小切手の割引直後行方不明となっているので、原告は、金五六四万円を交付して支払見込みのない本件小切手を割り引いたことになる。

(三) したがって、原告は、大河内次長の誤った回答により、金五六四万円の損害を被ったことになる。

(四) そして、被告は、大河内次長の使用者として、同次長の右不法行為により原告が被った右損害を賠償する責任がある。

6  よって、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償として、金五六四万円及びこれに対する不法行為による結果発生後である平成三年四月一七日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  第1項の事実は知らない。

2(一)  第2項(一)(二)の事実は知らない。

(二)  同項(三)(四)の事実は認める。

3(一)  第3項(一)の事実は認める。

(二)  同項(二)の事実は、そのうち、本件信用照会の具体的態様を争う。大河内次長は、長尾課長から第一回目の電話があったときは、自らは電話に出ず、女子職員をして、後刻、大河内次長の方から電話をする旨伝えさせて回答を控えたが、長尾課長から再度の電話があり急を要する模様であったためにアキヅキの会社概要について報告し、かつ、一応順調に決済されている旨告げたものである。

4(一)  第4項(一)は争う。

(二)  同項(二)(三)の事実は否認する。大河内次長が一回目の不渡りの事実を告げなかったのは、アキヅキが一回目の不渡りを出したことは平成三年四月一二日付で手形交換所から各銀行に通知されているので、長尾課長もそれを知った上で、その後の決済状況を照会してきたものと考えたためである。大河内次長は、本件信用照会後、アキヅキが小切手一通を不渡りとしたので、同日の午後五時ころ、長尾課長に電話をした上、前の回答に際して一回目の不渡りがあったことを告げたかどうかを確認したところ、これを聞いていないとの返事であったので、改めてアキヅキが本件信用照会前に一回目の不渡りを出していた旨伝えるとともに、同日二回目の不渡りを出した旨伝えたものである。

銀行は顧客の秘密を保持すべき義務を有しているから、信用照会に対する回答に際しては顧客の業種、取引の概要等の一般的な状況や信用状態の開示にとどめるべきで、顧客にとり望ましくない情報、顧客に損害を与えるような情報の提供は差し控えるべきものとされている。したがって、たとえ顧客の決済状況が極めて窮屈に見える場合でも、決済がなされている限りは、そのような状況を回答すべきではなく、「決済は順調である。」との回答に止めるべきである。そして、本件において、アキヅキは、平成三年四月九日に一回目の不渡りを出したものの、同月一〇日、一二日、一五日に呈示された手形・小切手は決済していたのであるから、銀行の秘密保持義務に照らすと、大河内次長の前記回答に非難されるべき点はない。

また、銀行照会制度においては、その回答内容を秘密にすべき旨の申合せがされているので、大河内次長は、長尾課長が回答内容を原告代表者に伝達することも、原告代表者が本件小切手の割引をするか否かを自己の回答内容に基づき判断しようとしていることも予見することができなかった。

5(一)  第5項(一)の事実は否認する。

本件小切手の割引は、原告代表者が妻である澤田幸子を代理して行ったものであり、金五六四万円も澤田幸子の預金口座から支出したものである。

(二)  同項(二)の事実は知らない。

(三)  同項(三)の事実は否認する。原告の損害と大河内次長の回答との間には、相当因果関係がない。

(四)  同項(四)は争う。

6  第6項は争う。

三  抗弁

1  回答銀行の無答責

銀行間の信用照会制度については、その信用情報を他に漏洩しない旨及び回答内容について回答銀行の責任を追及しない旨の申し合わせがされており、また、銀行間には、回答銀行に対して責任を追及しないという慣習がある。したがって、そのような立場にある住友銀行に被告への銀行照会を依頼し、その回答内容の開示を受けた原告は、住友銀行と同様に、被告に対してその結果について責任を追及することができないと言うべきである。

2  信義則違反

以下の事情により、原告の本件請求は信義則に反し許されない。

(一) 原告は、素性も住所も明らかでない金融ブローカーの守口から本件小切手を安易に取得したこと。

(二) 原告は、原告とアキヅキとの間に取引がなく、かつ、本件小切手の振出日が約一か月の先日付となっていたにもかかわらず、本件信用照会以外の信用調査をしていないこと。

(三) 本件小切手の金融欄は、チェックライターではなく、手書きで記入されているが、原告は、このような場合に当然なすべき、振出人(アキヅキ)への振出確認をしていないこと。

(四) 原告は、本件小切手の割引に際し、月六分(実質年率76.59%)という高率の割引手数料を取得することにより、本件小切手が決済されなかった場合の危険に備えていること。

(五) 原告代表者は、信用金庫に勤務した経験があり、手形、小切手及び銀行間の信用照会について十分な知識を有していたこと。

(六) 原告は、住友銀行を通じて、漏洩が禁止されている銀行照会の回答内容を入手するという違法な情報収集をしたこと。

四  抗弁に対する認否

1  第1項は争う。

大河内次長は、長尾課長に対し、故意又は重大な過失により、一回目の不渡りの事実を告げないで決済は順調である旨の虚偽の回答をしたものであり、このような場合にまで回答銀行が免責されることはない。

2  第2項は、原告の請求が信義則に違反することを争う。原告は、手形事故の有無の確認を求めたものであって、手形事故の有無は違法な秘密の漏洩に当たらない。また、仮に違法であっても、回答銀行に故意又は重大な過失があるときは、責任追及が信義則に反することはない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一証人長尾眞一・同澤田通男の各証言と弁論の全趣旨によると、請求の原因第1項の事実(信用照会の依頼)及び第2項(一)の事実(信用照会結果の連絡)が認められ、同項(三)の事実(アキヅキの二回の不渡りと銀行取引停止処分)及び同項(四)の事実(本件小切手の支払拒絶)は当事者間に争いがない。

二次に請求の原因第3項(本件信用照会の状況)について判断するに、〈書証番号略〉、証人長尾眞一・同大河内巖・同澤田通男の各証言と弁論の全趣旨によると、以下の事実を認めることができる(一部争いのない事実を含む。)

1  長尾課長は、平成三年四月一六日の午後三時ころ、被告の福島支店に電話をかけ、電話に出た女子職員に対し、「当座の役責の人をお願いします。」と電話の取次ぎを依頼したが、担当者である大河内次長は、住友銀行からの信用照会の電話であることを認識した上、後で自分の方から電話する旨伝えさせて、その電話には出なかったこと。

2  そこで、長尾課長は、午後三時五分ころまで待ったが、折り返し電話がかかって来なかったので、被告の福島支店に督促の電話をかけたこと。

3  右電話を取り次がれた大河内次長は、信用照会の応対をし、アキヅキの資本金が金三〇〇〇万円であること、月商が平均して金三〇〇〇万円であることなど会社の概要に関する回答をしたほか、長尾課長との間で次の趣旨の会話をしたこと(証人大河内巖の証言中、この認定に反する部分は、証人長尾眞一の証言に照らし採用することができない。)。

①  長尾課長

「株式会社アキヅキの六〇〇万の小切手の決済の見込みはどうでしょうか。決済状況は順調ですか。」

②  大河内次長

「今まで回ってきた分は、順調に決済しております。ただ、六〇〇万という金額はちょっと大きいですね。今までに回ってきたことはありません。現物はお持ちですか。」

③  長尾課長

「それは持っていません。照会を頂いたものですから。決済振りはどうでしょうか。」

④  大河内次長

「一応順調に決済しております。」

4  しかし、大河内次長は、同日の午後五時五分ころになって、長尾課長に電話をかけ、「先刻の件ですが、一回目の不渡りが出ているということは言っていませんでしたかな。」「実は、今も入金待ちをしているんですが、今日、二回目がでる見込みです。」との趣旨の連絡をしたこと。

5  右連絡に驚いた長尾課長は、直ちに原告代表者に電話をかけ、その旨連絡したこと。

三そこで、請求の原因第4項(大河内次長の回答の不法行為性)について判断する。

1  〈書証番号略〉、証人大河内巖の証言と弁論の全趣旨によると、以下の事実を認めることができる。

(一)  アキヅキの平成三年四月一日から同月一六日までの当座預金の決済状況及びその間に交換呈示された手形・小切手のうち、決済されなかったものは、別表記載のとおりであること。

(二)  アキヅキは、同月九日に金二〇〇万円の小切手について一回目の不渡りを出し、その事実は、大阪手形交換所の同月一二日付不渡報告書により同月一五日までには住友銀行南森町支店にも連絡されていたこと。

(三)  アキヅキは、同月一〇日、一二日、一五日に交換呈示された手形・小切手については、依頼返却を受けた前示二通の小切手を除き、すべて決済したこと。

(四)  本件信用照会の前日のアキヅキの口座残高は金一五万五四五七円であり、本件信用照会の当日に額面合計金七九五万六五〇〇円の手形・小切手が交換呈示され、その後、金三〇万円、金六五万六五〇〇円、金二〇〇万円、金二五〇万円が順次振込入金され、さらに、金一五〇万円の小切手が依頼返却された後、金二五万円が現金入金されたが(入金額の合計は金五七〇万六五〇〇円)、最終的には、金六〇万円の小切手の決済資金が足りなかったため(口座残金は金五四五七円)、二回目の不渡りを出したこと。

(五)  本件信用照会の当日の午後一時過ぎころ、大河内次長はアキヅキの問い合わせに答えて決済資金の不足額をアキヅキに伝え、その入金を要請したこと、これに対し、アキヅキは、三時ころまでにはすべて入金する旨返答したが、本件信用照会のあった時点では、未だすべての手形、小切手を決済できるだけの資金を入金していなかったこと。

(六)  本件信用照会に対し、大河内次長は、アキヅキについて特に資料の調査をすることなく、電話口で即座にその資本金、月商その他会社の概況に関する事項を長尾課長に告げたこと。

(七)  大河内次長は、アキヅキの代表者のポケットベルの番号をアキヅキの提出した当座勘定取引開始申込書に注記していたこと。

(八)  大河内次長は、本件信用照会とほぼ同じころに他の二行からなされた信用照会に対しては、後に折り返し電話をする旨伝えたのみで、午後五時を過ぎ二回目の不渡りが決定した後になって、各照会銀行に対しアキヅキが二回目の不渡りを出した旨の電話連絡をしたこと。

2 右1、2において判示した事実及び前示二の本件信用照会の状況を総合考慮すると、本件信用照会のなされた時点においては、アキヅキの代表者は決済資金の手当てのために奔走していたこと、大河内次長は、アキヅキの代表者から必ず決済資金金額を入金するからとの申入れを受けて、緊急の場合の連絡が取れる態勢をとりながら入金を待っていたこと、以上の事実を推認することができ、したがって、また、大河内次長は、アキヅキが従前の決済状況からして、資金繰り上、危機的状態にあること、すなわち、当日中に二回目の不渡りを出す可能性が極めて高い状態にあることを十分に認識していたものと推認することができる(本件信用照会の第一回目の電話は右のような状況下に大河内次長宛にかけられたものであり、大河内次長が他の二行からの電話照会に応対せず、また、折り返し電話をしないで、二回目の不渡りが出ることが決定した後にその旨の電話連絡をしたことからすると、大河内次長が長尾課長の第一回目の電話に直ちに応対しなかったのは、アキヅキの状況からして、信用照会の電話にその時点で応対するのは相当ではないと考えたためであり、第二回目の電話に応対したのは、長尾課長の方から約五分後に督促の電話をかけてきたため、折り返し電話するとして回答を引き延ばすことが困難な状況になったためと推認すべきである。)。

右の点を前提として前示二の本件信用照会の状況を見ると、大河内次長は、アキヅキの信用状態が極端に悪化していることを秘そうとした結果、長尾課長がアキヅキの一回目の不渡りを知らないで信用照会の電話をかけてきているとの認識を持ちながら、敢えて一回目の不渡りについて言及せず、また、当日の決済が順調に行われてはいなかったにもかかわらず、敢えて「一応順調に決済している。」との回答をしたものと推認すべきである。

3 ところで、銀行は、顧客との間の取引契約に基づき、信義則上、顧客との取引に関連して知り得た顧客の秘密情報について守秘義務を負っていると解すべきであるから、銀行は、顧客との間では、正当な事由のない限り、顧客の預金又は資金の有無、種類、残高その他取引上知りえた秘密情報を他の銀行その他の第三者に漏洩してはならない立場であり、信用照会に対する回答ではあっても、その開示内容如何によっては、銀行が顧客に対して負っている守秘義務に反する場合があると言わねばならない。

他方、銀行間の信用照会は、ギヴ・アンド・テークの精神により顧客の正味資産、銀行取引の内容及び手形決済の見込み等、顧客である個人又は法人の支払能力の有無について銀行間で情報交換することを目的として、銀行間の申合せに基づいて行われ、照会銀行は回答銀行に対し、その結果について責任追及をすることができないものとされている(〈書証番号略〉と弁論の全趣旨による。)。すなわち、銀行間の信用照会はいわゆる紳士協定に基づくものであるから、照会銀行は、被照会銀行に対して守秘義務に反してまで顧客の情報を開示するよう要求することはできず、かつ、提供された情報が不正確であったため損害を被った場合でも、被照会銀行に対し、その責任追及をすることはできない。また、銀行間では、同時に、第三者に対して秘密の漏洩をしないことも申し合わされているので(〈書証番号略〉による。)、銀行は、第三者に被照会銀行の顧客の秘密情報を流すために信用照会制度を用いることは許されないし、第三者も、被照会銀行に対し、銀行間の信用照会制度により秘密情報を開示することを要求し又は期待することはできない。

そこで、右の点を前提として本件について見るに、アキヅキは、本件信用照会のなされた時点では二回目の不渡りを出すことを避けるために決済資金の調達に奔走している状態にあったのであるから、当時のアキヅキにとって、そのような状況に陥っていることは企業の存亡に係わる最大の秘密事項であったと言える。他方、前示のように長尾課長は原告代表者からの依頼に基づき本件信用照会を行い、しかも、その際、顧客からの依頼による旨告げているのであるから、本件においては、前示の銀行間の申合せ事項に反し銀行外へ秘密が漏洩される可能性が濃厚であったことになる。したがって、そのような状況の下で大河内次長が本件信用照会に対し長尾課長にアキヅキに一回目の不渡りがあったことを告げ、又はアキヅキの決済が順調に行われておらず、当日も二回目の不渡りを避けるために奔走しているといった趣旨の回答をすることは、アキヅキに対する取引契約上の守秘義務に反すると言うべきである。

他方、本件信用照会は、長尾課長において自己の都合で選択した時間に電話により行ったものであり、かつ、大河内次長に対しその場で回答することを要求するものであって、大河内次長において、これに対する回答を拒絶し又は留保した場合には、その本来の意図に反し、そのこと自体によってアキヅキの信用状態を長尾課長、ひいては依頼者である原告に開示してしまうおそれがあったと言うべきである。

そうすると、一回目の不渡りは既に住友銀行南森町支店に書面により連絡されていたこと、アキヅキが一回目の不渡りの後、一応、すべての手形・小切手を決済していること、本件信用照会当日も、決済資金を入金することを約して順次入金していたことを考慮すると、前示のような状況の下でされた本件信用照会に対し、大河内次長がアキヅキの一回目の不渡りについて敢えて触れず、また、一応順調に決済している旨述べて、当時の事情を隠すために多少それと異なるニュアンスの回答をしたことをもって、守秘義務を守るべき者として不相当な対応をしたとすることはできないから、仮にその回答に基づき原告が本件小切手の割引をし、その結果、損害を被るに至ったとしても、大河内次長の前示回答行為は、これをもって違法とすることはできない。

4  したがって、大河内次長の本件信用照会に対する前示回答行為は、原告に対する不法行為には当たらないことになる。

四なお、原告は、大河内次長の誤った回答に基づき金五六四万円の損害を被ったと主張するが(請求の原因第5項)、〈書証番号略〉、証人澤田通男の証言によると、原告代表者が守口に交付したとされる金五六四万円は、原告代表者の妻である澤田幸子名義の口座から引き出された金七〇〇万円の一部であることが認められるところ、右各証拠によると、右口座には他店手形による入金が頻繁に行われており、また、そのうち入金取消しとなったものもあること、原告代表者は、住友銀行を通じて数え切れないほど、銀行照会制度を利用していること、本件小切手は金融ブローカーの守口が割引依頼をしたものであり、原告代表者は、これに先立ち守口から手形の割引を数回していること、本件小切手は先日付の小切手であり、それが一箇月六分という高利率で割り引かれていること、原告は、アキヅキが銀行取引停止処分を受けたことが明らかになった後に本件小切手を交換呈示していること、原告は、原告代表者が妻澤田幸子ほか一名とともに取締役になって設立した株式会社であるが貸金業は目的としていないこと、以上の事実が認められ、これらの事実によると、右口座は、原告代表者個人が無登録で高利の貸金業を行うために用いている口座であり、原告代表者が原告の名で本件小切手を呈示したのは、被告に対する責任を追及することを予定して、これを表に出すために行われた便宜的な措置である可能性が濃厚である。したがって、右各証拠によっては原告がその資金により本件小切手を割り引いたものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、本件においては、この点からも原告に対する不法行為は成立しないことになる。

五以上において判示したところによると、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岡久幸治 裁判官田中寿生 裁判官橋本佳多子)

別紙目録

金額 六〇〇万円

支払人 日本貯蓄信用組合

支払地 大阪市

振出日 平成三年五月一三日

振出地 大阪市

振出人 株式会社アキヅキ

別表〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例